大判例

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東京高等裁判所 昭和50年(う)1750号 判決

被告人 古山亮三

〔抄 録〕

所論は、原判決はカセットテープ一本(当庁昭和五〇年押第六〇三号の一)を証拠として採用しているが、右のカセットテープは、福田恵子がその義父福田雪男や有本格らのいるところでその指示に従って被告人に電話をかけた際の電話の会話を、始めから証拠として提出するために録音したもので、このことは、その会話の中で、福田恵子は、有本らの指示に従って、被告人に提供する金の工面ができているのにできていないと嘘を言ったり、被告人の許に行くという約束をしたのに被告人を怒らすために行くことを断わったりして、被告人をわなにかけていることからも明らかであり、右カセットテープが作られた証拠であることは疑いがない。したがって、右カセットテープは、偽計による自白(最高裁判所昭和四五年一一月二五日大法廷判決、刑集二四巻一二号一、六七〇頁参照)と同様証拠能力がないものというべきであるから、これを証拠に採用した原判決には訴訟手続に法令違反がある。そして、右カセットテープの録音内容は、本件恐喝未遂の事実を認定する要点である被告人の三松旅館における言動を推定させる唯一の客観的証拠であるから、右訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである、と主張する。

そこで、原審記録ならびに所論指摘のカセットテープ一本を調査して所論の当否を検討するに、関係証拠によれば、福田恵子は、昭和五〇年二月五日、次項に認定するような経緯で同女が被告人に提供することを約束した金二〇万円を義父福田雪男に用立ててもらったものの、これを被告人に提供するのがよいかどうかに迷い、同人およびその娘堀畑美穂子らと共に親戚の西川美ほ方に相談に行き、さらに右西川の知人に有本格を紹介してもらい同人宅に相談に行ったところ、同人は、同女がこの二〇万円を提供してもそれですべてが済むわけではなく、後になってまた金を要求されることになるおそれがあるから、金で解決するのは止して警察に届けるべきだという意見を述べたので、同女もその気持になり、同人宅から三松旅館にいた被告人に二度にわたって電話をし、金は提供できないし、被告人の許にもいけない旨知らせたのであるが、所論のカセットテープは、右二度にわたる電話の会話内容を後日の証拠にすることを主たる目的として有本が同女の意向を受けて録音したものであることが明らかである。原審証人有本格は、右の録音をしたのは証拠にするためではなかった旨供述し、証人福田恵子も当審において同様の供述をしているが、右各供述は証人福田恵子の原審における供述ならびに右録音の経過に照らして措信し難い。してみれば、所論のカセットテープは、福田恵子が被告人の脅迫あるいは恐喝等の行為から身を守る自衛行為の一環として、後日警察に届出る際の証拠とするため、被告人との電話の会話内容を録音させたものともみられるのであって、録音それ自体に特に著しい違法の点はないというべきであり、また、その会話の中で、同女が被告人に提供する金の用意ができているのにできていないと嘘を言ったり、被告人の許に一旦は行くという約束をしながらそれをすぐ断って被告人を怒らせたりしたとしても、それらはいずれも同女のやむを得ない自衛策として許される範囲内の行為とみられ、特に被告人の犯罪行為を新たに誘発したものではないのであるから、その証拠能力を否定されるいわれはないといわなければならない。

(藤井 山木 千葉)

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